住まいのインタビュー
がんばらない、減災住まいづくりのすすめ
減災ファシリテーター 鈴木 光

もしもの大地震などの災害に備えて安心安全な住まいにするのはどうしたらよいのでしょう? 減災ファシリテーター 鈴木 光さんがご自身の「減災と写真のアトリエ」での減災アイデアと工夫を紹介します。

防災と減災の違い
少しでも多くの人に防災・減災を身近に感じてもらいたいという想いから、一般社団法人減災ラボの活動を行っています。防災・減災というと堅苦しく感じられがちですが、災害に真摯に向き合いながら、命につながる大切な知識をわかりやすく、時には楽しさや軽やかさも添えて伝えていきたいと考えています。
「防災と減災はどう違うの?」という質問をよくいただきます。防災は災害や災害による被害を未然に防ぐための備え、減災は災害による被害を最小限に抑える備え。減災は、より現実的で柔軟な対応と言えます。ご自分の住まいが減災の観点で工夫されていれば、安心して災害に向き合うことができます。今回は、私のアトリエでの減災の工夫をご紹介します。参考にしていただければ幸いです。

最近リフォームしたアトリエ兼自宅。和室とリビングとの間の壁に、京都のお寺をイメージした丸窓を設けました。
楽しい減災おうちづくり
作品が映える漆喰の壁にピクチャーレールを取り付けて、気分で作品を取り替えて楽しんでいます。いつ来るかわからない災害に備えて、住まいの楽しさを我慢するのは本末転倒です。たとえばガラス板入りの額が地震で落ちると怖いから飾るのをあきらめるのではなく、アクリル板に替えれば地震が起きても最小限の被害で済みます。このように、楽しみをあきらめずに減災と両立する住まいづくりを心がけています。

リフォームによって「減災と写真のアトリエ」を目指しました。父である写真家 鈴木 清の作品を小さなギャラリーのように飾って楽しんでいます。
「食べて回す」場所は1カ所
防災備蓄食品は乾物・缶詰・レトルト食品などのふだんよく食べるものを少し多めにストックし、使ったら都度買い足すローリングストック方式で備蓄しています。これならフードロス防止に役立ちますし、防災食を長期ストックしなくても安心できます。
家にあるパスタや缶詰の常備品とカセットコンロ・水を使って作る「水浸けパスタ」などのレシピは、被災時の水やガスの節約に役立ちます。

システムキッチンの引き出し1カ所に備蓄食材をまとめています。食材の減り具合も一目瞭然。在庫管理にも役立ちます。
被災時に大助かりのキッチンツール
水道・ガス・電気のライフラインが途絶えた被災時に役立つのが、これらのキッチンツール。少ない水の量で蒸し料理も出来るテフロンのフライパン。高密度ポリエチレン袋「アイラップ」は耐熱性のためパスタを茹でたりお米を炊いたりするのに使えます。シリコンのスパチュラやトングは料理の汚れをこそげ取ることができ、洗い物をする際の節水にも大活躍です。食器や調理器具を衛生的に保つための除菌剤やキッチンペーパーも災害時の必需品です。ふだんからこれらのツールを愛用していれば、いざという時にもいつも通り調理できます。
またシステムキッチンにはすべて耐震ラッチが付いていて、災害時の食器の飛び出しの心配はありません。地震が起こるとキッチンが一番危険な場所となります。減災対策をしっかりと行っておきたいものです。

被災時に水とエネルギー(熱源)を節約できるキッチンツール。
見る本棚vs使う本棚

リビングの「見る本棚」は、写真集やレコードにサイズを合わせて作ってもらったもの。減災を考えて敢えて2段に抑えました。
地震で怖いのが本棚です。中の本が飛び出したり本棚が倒れたりする危険があります。とはいえ仕事や研究で使う本や趣味のレコード・写真集もたくさんあります。そこでアトリエでは「見る本棚」と「使う本棚」に分けて収納しました。
リビングの「見る本棚」には、写真集やよく手にする本をディスプレイ的に並べました。腰の高さの棚と本の量ならば、地震が起きて収納物が飛び出しても被害は最小限に抑えられます。

開き戸式の押し入れの一角に「使う本棚」を設置。可動式の棚にしています。
押し入れの奥行きを利用した「使う本棚」には、仕事や研究用の本や資料を収納しています。引き戸を開ければ一目で書棚全体が見渡せます。「見る本棚」と「使う本棚」に分けたことで、自分の心のオン/オフのメリハリも付きました。
飛び出さない押し入れ

4枚引き違い戸の押し入れは、上下に通気口を設けてあります。
押し入れは4枚の扉が横にスライドする引き違い戸です。左右どちらからでも開閉でき、地震で中の物が飛び出してくる心配が少ないのも安心です。

押入の右側下には着物用の桐箪笥。台車を付けて出し入れしやすく工夫しています。
好きと安心を両立した寝室

母が開業していた治療院で使っていた医薬品棚を譲り受けて飾り棚として活用。我が家で唯一高さとガラスのある家具です。
寝室は家の中でも一番安全にしたい場所です。本当は背の高い家具などを置かないようにしたいものですが、この家具は母から譲ってもらったお気に入りでどうしても譲れません。寝室に置くのはベッドと飾り棚と椅子だけと決め、飾り棚が倒れてきても大丈夫なようにベッドから位置をずらして置いています。ベッドの足元には、割れたガラスを踏んでも大丈夫な厚底スリッパを常に置いています。減災対策を工夫した上で、好きと安心が両立したお気に入りの寝室となりました。
安心を照らす灯り

太陽光・USB・乾電池の3つの充電方式があるLEDランプを常に玄関に置いています。
いざという時の非常灯は、手探りでもすぐわかる場所(玄関)に置いています。2021年3月の宮城・福島沖地震で関東圏が広域停電した際にも安心できました。非常用のランプや懐中電灯は、各部屋のドアノブにぶら下げておいてもよいですね。ふだん目にする場所に置くものなので、好みのデザインを選ぶと良いと思います。
明日の備えも日々の楽しさもあきらめない

非常用の照明器具は、実際に使ってみて明るさや充電時間をチェックします。間接照明として使えるもの、実用的な照度のあるものなどは使ってみないとわかりません。
大地震が起きた場合、自宅が居住可能であれば自宅で生活を続ける「在宅避難」が推奨されています。部屋の中の減災対策をしっかりと施した上で、家の中のどの場所が危険か安全かを把握していれば、「在宅避難」に適した安全安心な住まいになります。何より住み慣れた家だからこそ、非常時であっても心強く過ごせます。
コロナ禍を通して、私も「おうち大好き心」がますます強くなりました。きたるべき災害に備えながら、誰もが好きなものやインテリアに囲まれて居心地の良い暮らしを営みたいものです。少しでも多くの方が減災の工夫を施して、好きなものをあきらめない住まいづくりを実践されることを願っています。
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記事監修:⼀般社団法⼈減災ラボ 代表理事 鈴木 光
あとがき

⼀般社団法⼈減災ラボ代表理事 鈴⽊ 光さん
減災アトリエ 主宰、減災ファシリテーター、防災図上訓練指導員。建設コンサルタント退職後、フリーランスの減災ファシリテーターとして活動し、2015年5月に減災アトリエを設立。全国各地の自治体職員・地域住民・学校・企業等に、防災ワークショップや防災講座、訓練企画等を実施。2013年に地図とクリアファイルを使って⾃分だけの防災マップを作る防災教育プログラム「my減災マップ®」を考案。現在は、各地の学校教育現場、⾃主防災活動等で取り⼊れられている。朝⽇新聞(神奈川版)で⽉1回(最終⼟曜⽇)の減災コラム「がんばらない減災のすすめ」連載中。